「おやしらず」について
私が在籍していた伊東歯科口腔病院では、歯科医師2・3年目になりますと抜歯・手術を専門にする部署に配属されます。つまり毎日毎日抜歯・手術の介助ばかりするのです。いったい何本抜くのだろう?と最初は数えていたのですが500本超えたあたりで数えるのをやめました。最近になって、この20年以上の歯科医師人生で何本の歯を抜いてきたのだろうと考えてしまいます。
さて、このように親知らずと密接に関わりながら歯科医師人生を歩んできた私には、親知らずに関する相談がよくきます。
「横向きの親知らずを抜いたほうがいい」と歯医者さんに指摘されました。いまはまだ歯ぐきがたまに腫れる程度です。それでも抜いたほうがいいんでしょうか?
親知らずが歯を支える骨のなかに埋ったまま、隣の歯にひっかかって生えてこなかったり、間違った方向に生えてしまう「萌出異常」は、あごの骨格の発達が不十分な私たち現代人にとって、めずらしい症例ではありません。
食べ物が軟らかく調理され、がんばって噛まなくても食べられるようになった結果、現代人のあごの骨格は昔よりも小さくなっています。生えるスペースが足りなくなり、最後に生えてくる親知らずの「萌出異常」も必然的に増えているのです。
ただ、いくら歯科医師に指摘されたとしても、つらい自覚症状がないかぎり、「なぜ抜く必要があるのか」については、原因が歯ぐきの下に隠れていて直接見えないだけに、なかなか納得しづらい面があると思います。親知らずの抜歯ともなると、痛いし、腫れるし、たいへんですから。
私は患者様に、萌出異常の親知らずがどんな悪さをし、どんな間題を生むのかについてご理解いただきたいと思っています。そして、痛い思いをなさるのですから、十分に納得して抜歯に臨んでいただきたいのです。